PCRのしくみとポイント

バイオテクノロジー

PCRとはDNAを増やすために行う実験法です。Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の頭文字をとって名づけられました。分子生物学が主流になってきた現在、PCRはもっとも日常的に行われる実験であると思います。

僕も学生実験で何度もPCRを行いました。今回はそのPCRについて解説していきます。高校の生物でも習いますが、高校の授業よりも少し詳しく解説します。また手順よりも原理に焦点を当ててお話していこうと思います。

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PCRの3ステップ

PCRは大きく分けると3ステップからなるサイクルがあり、このサイクルを20~30回繰り返します。

3ステップは、
・DNAの熱変性(denaturation)
・プライマーの焼き付け(annealing)
・DNA鎖の伸長(elongation)
でそれぞれ温度を変えて別々の現象を起こします。

各ステップで起こっている現象を簡単に説明するとと二本鎖を一本鎖にほどき、一本鎖にプライマーをくっつけて、酵素にプライマーの続きからDNAを合成させるというものです。

PCRの3ステップ。水色の線がDNAを示し、オレンジ色の線がプライマーを示す。伸長の図に出ている矢印はDNAの伸長方向を示す。

詳しく見ていきましょう。

まず95℃ほどの熱を15秒から1分間かけ二本鎖のDNAを解離させ一本鎖にします(解離)。一本鎖DNAの鎖同士の結合は水素結合でできているので、熱することで簡単にほぐれます。

次に37℃から60℃ほどで30秒から数分おき一本鎖になったDNAにプライマーを結合させます(焼き付け)。一本鎖DNAは温度を下げていくと再結合して二本鎖に戻ります。このときプライマーは長い一本鎖DNA(相補鎖)よりも優先して結合していきます。プライマーは短く、変性前にくっついていた相補鎖よりもたくさんあるからです。

そして70℃ほどに再加熱することで、酵素にDNA鎖を合成させます。

この3つのステップが1サイクルで、何サイクルも繰り返すことでプライマーにはさまれた目的のDNA断片だけ大量に得ることができます。

PCRによって増幅されるDNA断片

1サイクル終えるごとにDNAの本数は2倍になります。

しかし増えるDNA断片には3つのタイプがあります。最初に鋳型にしたDNAを含むもの、鋳型DNAから直接合成した長いDNA断片を含むもの、そしてプライマーではさまれた目的のDNA断片です。
プライマーにはさまれた目的のDNA断片は他のDNA断片とは異なり指数関数的に増加していきます。よってPCRを終えると目的のDNA断片のみを大量に得ることができます。

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PCRのポイント

2種類のプライマー

PCRでプライマーは2種類用います。
1つがforwardプライマー、もう1つがreverseプライマーと呼ばれています。

センス鎖を合成する起点になるのがforwardプライマーで、アンチセンス鎖の合成の起点がreverseプライマーです。
プライマーは鋳型となるDNA鎖の特定の領域に結合できるように配列を決めて作ります。増幅させるDNA領域はこの2つのプライマーによってはさまれた領域です。

耐熱性のDNA合成酵素

高熱によって二本鎖DNAを解離させるため、PCRにはこの温度帯でも失活しない酵素が必要です。

そのため酵素は好熱菌のDNA合成酵素であるTaqポリメラーゼが使われています。普通の酵素は60℃程度でタンパク質の立体構造が保てなくなり失活してしまいますが、Taqポリメラーゼは失活することなくPCRのサイクルの間働き続けることができます。

Taqポリメラーゼが使われる前は大腸菌のDNA合成酵素を使っていたらしいのですが、高温によって失活してしまうので1サイクルごとに酵素を足していたそうです。とても大変そうです。

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DNAを増やせると何ができるか

PCRを基礎にしてできた派生的な実験法にも有用なものはたくさんあります。サイクルシークエンス法は増やしたDNAの配列を調べることができる手法です。特定のDNA領域を比較することで種(品種)を特定できます。
また人間のDNAを増やし配列を調べると、ごく少量の血液や唾液から親子鑑定や犯人探しを行うことができます。PCRはDNAを増やすだけの技術ですが、応用の仕方次第で様々なことができます。

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まとめ

PCRの3ステップは、
・DNAの熱変性(denaturation)
・プライマーの焼き付け(annealing)
・DNA鎖の伸長(elongation)
です。

PCRは現代生物学に必須の実験法です。大学入試の問題にも度々出てきます。PCRが広く使われている実験手法であるからかもしれません。応用の仕方次第ではDNAから色々なことを調べることができます。

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参考文献

超実践バイオ実験イラストレイテッド レッスン1 キットも活用遺伝子実験 2005年 西方敬人・真壁和裕著 秀潤社

コメント

  1. ゆた より:

    たまたま流れ着いたのですが、6サイクル目以降の数字がおかしくないでしょうか?
    昔の記事に突っ込み申し訳ありませんでした。

    • とむぞう より:

      返信が遅くなってしまい申し訳ございません。
      ご指摘いただきありがとうございます!
      6サイクル後の数字、そして目的のDNA断片の数式が間違っていました。
      画像を修正いたしました。

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