最近、ゲノム編集食品が話題になっています。
ゲノム編集は食料生産の効率を大きく高めることができると言われています。
しかし安全なのだろうかと疑問を持っている人もたくさんいると思います。
今回は遺伝子組換えの違いも含めて、ゲノム編集のメリットとデメリット(危険性)、そしてどんな食品をゲノム編集でつくることができるのかということをまとめていこうと思います!
ゲノム編集食品とは?
ゲノム編集食品とは、ゲノム編集技術を使って遺伝子を書きかえることで、特徴(育ちやすさ・栄養価)を変えた食べ物(生き物)のことです。
ゲノム編集は近年新しくでできた遺伝子工学の1つです。この最新技術を用いて作られた食品が早ければ今年(2019年)の夏にも市場に流通するということで、注目が高まっています。
このゲノム編集食品にはたくさんのメリットがありますが、デメリットもあります。
メリット
効率的に品種改良できる
ゲノム編集は、短期間のうちに品種改良ができます。
その効率は、従来の品種改良よりはるかに良く、遺伝子組換え技術よりも上回わっています。
遺伝子組換えでは多くの種では狙って遺伝子を操作すること(遺伝子ターゲッティング)はできませんでした。
実は今までの遺伝子組換えはランダムに遺伝子を操作することが多かったのです。うまくいったものだけを探して育てていくというやり方で生き物のゲノムを操作していました。
ランダムに行うということは、もちろんたくさん失敗も起こるわけで、あまり効率的ではありません。
しかしゲノム編集を使えば好きな位置の遺伝子を書き換えることができるようになりました!
その結果、ゲノム編集を使うことで品種改良をものすごい早さで行えるようになったのです。
自然界で起こる突然変異に近い
ゲノム編集では特定の遺伝子を壊すことができます。
この遺伝子破壊の方法は自然界で起こる突然変異によく似ています。そのため今技術では自然界で生み出される変異とゲノム編集技術で改変された生き物を区別することはできません。
これについて「まだ技術が未完成だ」とか「区別できないのは困る」という人がいますが、区別できないほど自然に近い技術だと考えることもできます。
外来遺伝子が入らない
ゲノム編集と似た技術に遺伝子組換えがあります。
遺伝子組換えでは違う種類の生き物の遺伝子(外来遺伝子)を別の生き物に移植します。
つまり遺伝子組換え技術でつくられた生物は本来持たないはずの外来遺伝子が入った継ぎはぎだらけの生き物です。
基本的に自然界で起こっている突然変異でも生まれることはない生き物です。そのため遺伝子組換え食品にネガティブな印象を持つ人はたくさんいます。
しかしゲノム編集は外来遺伝子を入れずに生き物の遺伝子を編集することができます。
ゲノム編集では、生き物が本来持っているたくさんの遺伝子の中から食品としては悪い特徴を作ってしまう遺伝子(例えば成長を抑制する遺伝子)を除いてやることでいい食品になる生き物を作り出します。
外来遺伝子を入れずに遺伝子を操作できるには、ゲノム編集の最大の利点であり、遺伝子組換えとの大きな違いです。
デメリット(危険性)
意図しない編集が起こる可能性がある
ゲノム編集食品は遺伝子を狙って壊すことができますが、まれに意図しない場所を編集してしまう可能性があります。これをオフターゲットと言います。
もし有害な物質を分解するタンパク質の情報を持っている遺伝子が壊されてしまったら、生き物に有害な物質がたまってしまい安全な食べ物ではなくなってしまいます。
現在、この問題の解決策は活発に研究されています。
具体的には、遺伝子を見つける役割を持っているgRNAの認識部位の長さをあえて短くすることでミスマッチに敏感に反応できるようにする方法(Fu et al., 2014)や、認識部位を2つに増やし2つの部位で酵素が働いたときだけDNAを完全に切断する方法(Tsai et al., 2014)が研究されています。
オフターゲットの問題が解決されれば、医療への応用も可能になってくると思います。
ゲノム編集食品の実用例
ゲノム編集食品の実用化に向けて、国内でも新しい品種の開発はすでに行われています。
肉厚のマダイ
京都大学ではマダイにゲノム編集を行うことで、肉厚のマダイを開発しました。
筋肉の成長を抑制するミオスタチンの遺伝子をなくすことで、野生のものよりも肉付きが良くなるという仕組みだそうです。
この研究は海産魚の養殖で行われた初めてのゲノム編集の応用例で、今後他の魚にも応用されることが期待されています。
栄養価の高いトマト
また栄養価の高いトマトも開発されました。
このトマトは筑波大学の研究チームが開発したもので、血圧を下げる働きがあるGABAという成分を多く含みます。
GABAをつくることに関わるGADという酵素の遺伝子を編集し、GADが持っている自身の働きを弱める部位をなくすことでGADの働きを活性化させることに成功しました。
まとめ
ゲノム編集技術をうまく使えば私たちの生活はもっと豊かになります。今後の研究の発展や実用化に期待です!
引用文献
- Fu Y, Sander JD, Reyon D, Cascio VM, Joung JK (March 2014). "Improving CRISPR-Cas nuclease specificity using truncated guide RNAs". Nature Biotechnology. 32 (3): 279–284. doi:10.1038/nbt.2808. PMC3988262. PMID24463574.
- Tsai SQ, Wyvekens N, Khayter C, Foden JA, Thapar V, Reyon D, Goodwin MJ, Aryee MJ, Joung JK (June 2014). "Dimeric CRISPR RNA-guided FokI nucleases for highly specific genome editing". Nature Biotechnology. 32 (6): 569–76. doi:10.1038/nbt.2908. PMC4090141. PMID24770325.
- Kenta Kishimoto, Youhei Washio, Yasutoshi Yoshiura, Atsushi Toyoda, Tomohiro Ueno, Hidenao Fukuyama, Keitaro Kato, Masato Kinoshita (2018). Production of a breed of red sea bream Pagrus major with an increase of skeletal muscle mass and reduced body length by genome editing with CRISPR/Cas9. Aquaculture, Volume 495, Pages 415-427, ISSN 0044-8486, https://doi.org/10.1016/j.aquaculture.2018.05.055.
- Nonaka S, Arai C, Takayama M, Matsukura C, Ezura H. (2017 Aug) Efficient increase of ɣ-aminobutyric acid (GABA) content in tomato fruits by targeted mutagenesis. Sci Rep. 1;7(1):7057. doi: 10.1038/s41598-017-06400-y.PMID: 28765632 Free PMC Article
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