染色体とは?同じ染色体が2本ずつある理由。

生物学

染色体は生物にとって重要なものです。細胞の中にあって、同じ染色体が2本ずつあります。しかし一体どんな役割をしているかはあんまり知られていないかもしれません。今回はそんな染色体について説明していきます。

スポンサーリンク

染色体とは?

染色体はながーいDNAがコンパクトに折りたたまれてたものです。DNAだけで折りたたまれているのではなく、ヒストンというタンパク質に規則正しく巻きつけられて折りたたまれています。

DNAには遺伝情報が記録されています。細胞の中では、遺伝子が機能するために染色体の折りたたみが解かれたり、逆に使わない遺伝子はもっとコンパクトに折りたたまれたりしています。

また染色体は子孫に遺伝情報を伝えるために渡される物質でもあります。

染色体の数は生き物によってまちまちです。ヒトの場合は46本あります。

そのうち44本は常染色体とよばれ、二本ずつ同じ種類の染色体が存在します。また同じ種類の染色体のペアは相同染色体といい、同じ遺伝子を持っています。
常染色体は長いものから1番染色体、2番染色体・・・22番染色体と名前がついています。

また残りの2本は性染色体と言います。男性はX染色体とY染色体を持ち、女性はX染色体を2本持ちます。

ヒトの男性の染色体。女性の場合の性染色体は、X染色体が
2本になる。

染色体の実態はDNAなので、そこには遺伝子が書き込まれています
染色体の種類(1番から22番+XとY)によってどの遺伝子が書き込まれているのか決まっています。

例えば、成長ホルモンの遺伝子は17番染色体に、デンプンを分解するアミラーゼの遺伝子は1番染色体に、耳垢が湿っているか乾いているか決める遺伝子のABCC11は16番染色体にあります(Yoshiura et al., 2006)。

相同染色体は同じ遺伝子を持っているので全く同じ遺伝情報がのっているように思うかもしれませんが、実際は少しだけ異なる遺伝情報を持っています。なぜなら同じ遺伝子でも全く塩基配列が一致しているわけではなく、突然変異によって多少の違いがあるからです。

例えば耳垢の性質に関わるABCC11遺伝子は、ある箇所の塩基がG(グアニン)のもの(ここではG型ということにします)と同じ箇所の塩基がA(アデニン)に変わっているもの(A型)があります(Yoshiura et al., 2006)。2本の16番染色体の両方がA型のABCC11遺伝子を持っている人の場合、耳垢は乾いた状態になりますが、G型とA型を1つずつ持っている場合やA型を2つ持っている場合は耳垢は湿った状態になります。

耳垢の表現型を決めるABCC11遺伝子。A型遺伝子が顕性(優勢)。
スポンサーリンク

同じ長さの染色体はなぜ二本ずつあるのか?

染色体にはどこにどの遺伝子が入るか決まっています。そのため相同染色体があると、同じ遺伝子を2個ずつ持っていることになります。相同染色体の塩基配列はほとんど同じなので、一見すると情報がダブっていて無駄なような気がします。

でも相同染色体があることは、生物にとって役にたつことです。なぜ同じ長さの染色体はなぜ二本ずつあるのかということについて、今回は2つの例をあげて説明していきます。

  • 片方を元に切れたDNAを修復できる
  • 子どもの多様性を高めることができる

片方を元に切れたDNAを修復できる

DNAは2本の鎖でできていますが、放射線や化学物質などで二本鎖が同時に切られてしまうことがあります。これは生命にとっては重大なことで、遺伝子の情報がのっているところで切断されてしまったときは遺伝子が正常に機能しなくなってしまいます。なんとかしてDNAをつなぎ合わせなくてはなりません。

このとき相同染色体を使った修復が起こります。この修復方法は相同組換えといって、DNAの二本鎖切断を正確に直すことができる方法として知られています。相同組換え以外でもDNAをつなぎ合わせる方法(非相同末端結合)がありますが、切断箇所のDNAの塩基配列が失われてしまうことがあるため正確ではありません。同じ染色体を2本持っていることは遺伝子の情報を守るのにとって効果的なのです

子どもの多様性を高めることができる

相同染色体は1つは母親からの染色体で、もう1つは父親からの染色体です。相同染色体の片方は卵子から、もう片方は精子からやってくるということです。

この精子と卵の染色体の数は、他の細胞の半分です。精子と卵をつくるときは減数分裂という特殊な分裂で染色体の数が半分にします。半分の数の染色体を選びだすことは、たくさんの種類の精子や卵を生み出します。

22個の相同染色体のペアから1本ずつ選びだし、2本の性染色体からも1本選ぶので、染色体を半分するのはおよそ840万通り(2の23乗通り)ものパターンがあります。

減数分裂によって作り出される染色体の組合せは840万通り。

このようにしてつくられた卵と精子が受精するので、受精卵の染色体のパターンはもっと多くなります。840万通りと840万通りがかけあわさって、70兆通り(2の46乗)ものパターンが生まれます。すさまじい数です…

精子と卵子が受精すると染色体の数は元に戻る。図中の染色体の数はヒトの場合と異なります。

しかし実際は70兆通りよりもっと多くの遺伝情報のパターンを生み出すことができます。相同組換えという働きによって相同染色体同士で染色体の一部を交換することがあるため、遺伝子がシャッフルされた新しい染色体が生み出すことができるからです。

相同組換えによって新しい染色体ができる。

たくさんの染色体の組合せを作り出せるということは、さまざまな遺伝情報の組み合わせパターンを生み出せるということです。同じ親から生まれた兄弟や姉妹でも何から何までそっくり一緒にはなりませんよね?それは子どもがそれぞれ持っている遺伝情報が異なっているからです。

このようにして子どもの遺伝情報の多様性をたかめることは子孫を確実に残すことに関わってきます。遺伝情報が似たり寄ったりでは、同じ病気にかかったってしまう可能性があります。遺伝情報をバラバラにしてやることで、それぞれの個性が変わるため、環境が変化しても子どもが全滅してしまう可能性は低くすることができるのです。

スポンサーリンク

まとめ

  • 染色体はDNAがコンパクトに折りたたまれたもの
  • 相同染色体には同じ遺伝子がのっている
  • 同じ染色体があると正確にDNAの二本鎖切断を修復できる
  • 同じ染色体があると子どもの遺伝情報の多様性を高めることができる
スポンサーリンク

参考文献

  • Yoshiura K, Kinoshita A, Ishida T, Ninokata A, Ishikawa T, Kaname T, Bannai M, Tokunaga K, Sonoda S, Komaki R, Ihara M, Saenko VA, Alipov GK, Sekine I, Komatsu K, Takahashi H, Nakashima M, Sosonkina N, Mapendano CK, Ghadami M, Nomura M, Liang DS, Miwa N, Kim DK, Garidkhuu A, Natsume N, Ohta T, Tomita H, Kaneko A, Kikuchi M, Russomando G, Hirayama K, Ishibashi M, Takahashi A, Saitou N, Murray JC, Saito S, Nakamura Y, Niikawa N. A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type. Nat Genet. 2006 Mar;38(3):324-30. Epub 2006 Jan 29.

コメント

タイトルとURLをコピーしました