最近、ゲノム編集についてよく話題になりますが、ゲノムとは一体何でしょうか?
ゲノムについての説明は難しい言葉が多くて、調べてもよくわからなかったという人も多いと思います。
ここでは小学生でもわかるように、難しい言葉や専門知識をできるだけ減らして、例を交えながらゲノムについてわかりやすく説明しようと思います。
ゲノムって何?
ゲノムはある生き物が持っている全ての遺伝子の集合(全ての遺伝情報)のことです。
遺伝子は1つ1つの遺伝情報のことをさします。それら全てを合わせたものがゲノムになります。
そもそも遺伝情報とは何でしょうか?
遺伝情報とは親から子へ受け継がれていく情報のことで、ヒトの遺伝情報にはいろいろな情報がつまっています。わかりやすい例では、髪の毛の質(直毛かくせっ毛か)や耳あかの湿り度合い、耳たぶの大きさなどがあげられます。
見えないところでも遺伝情報は関わっていてます。消化や呼吸に関係する酵素や細胞分裂のコントロールも遺伝情報によってデザインされています。
このような生命を形作るために重要な情報の全てをまとめてゲノムとよんでいるのです。
ロボットに例えてみると……
先ほどの説明でわかったという方は少ないと思うので、もう少しかみくだいて説明していきます。
ゲノムや遺伝子についてロボットを例に考えて見ましょう。
遺伝子はパーツの設計図
ロボットを作るには設計図が必要になります。
ロボットは複雑です。そのため、手や足、胴体、頭などいろいろな部位を組み合わせて作ります。
設計図は1枚では足りません。ネジやモーター、フレーム、外装などそれぞれの部位ごとに部品があります。それを1つ1つ設計しなければなりません。あるネジはあるものを固定する、あるモーターは腕をあげる働きがあるというように別々の働きがあります。
このようなパーツ1つ1つの設計図は、生き物の場合は遺伝子に当たります。
遺伝子の中にはタンパク質の設計図になっているものがあります。
タンパク質はロボットのパーツのように、細胞の部品になったり、何かを分解や合成する働きを持ったりします。
ゲノムは全てのパーツの設計図がのっている本
ロボットはパーツ1つ1つに分解することはできますが、パーツだけではただのパーツにすぎません。
いろいろなパーツが集まって組み立てられることで、ちゃんとしたロボットになります。ロボットを作るには何千何万というパーツの設計図のまとまった本が必要です。
遺伝子も同じで、1つの遺伝子自体に意味はありますが、それだけでは完全なものではありません。たくさんのパーツが集まって1つのロボットを作りあげているように、生き物もたくさんの遺伝子が集まって1つの生き物を作り上げています。
つまり、イメージとしては、生き物において全てのパーツ(遺伝子)の設計図がのった本がゲノムです。(正確には、ゲノムは情報なので本に書かれていること自体がゲノムになります。)
似ている言葉(遺伝子、DNA、染色体)との違い
ゲノムに関連した言葉について整理しておきましょう。
遺伝子については最初に出てきましたが、1つ1つの遺伝情報のことです。
遺伝子がどのように遺伝情報を記録しているのかについては別の記事にまとめてあります。こちらもどうぞ。
遺伝子以外にもゲノムに関わる言葉は他にもいつくかあります。
DNAは化学物質のなまえです。正式名称はデオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid)で英語表記を省略してDNAとなっています。どんな化学物質かというと遺伝情報をのせている化学物質です。
ゲノムは情報のことをさすので、ゲノムの実態がDNAという物質になります。
DNAは小さなパーツがつながってできた物質で、ヒトの1個の細胞の中にあるDNAを全て合わせるとおよそ2 mもの長さになります。
目にも見えないくらいの小さい細胞に、2mもの長さのDNAが収まっているのは驚きですよね。
細胞の中ではDNAの長い鎖は折りたたまれてしまわれています。
このDNAが折りたたまれたものが染色体です。
ゲノム情報からわかること
ゲノムは生き物の設計図の本なので、この本の内容を読めばその生き物についての理解が深まります。
そのため、様々な生き物のゲノムを解読するというプロジェクトが行われてきました。
ヒトゲノムの解読プロジェクトは1991年から始まり、2004年に解析結果が発表されました。ヒト以外にもマウスやイネのゲノムも解読されています。ゲノムは種によって違っています。これらの違いや共通性を見ることでいろいろなことがわかってきました。
ヒトのゲノムについて調べていく中で、ヒトの遺伝子の数は他の種に比べて特別に多くはないことがわかりました。ヒトは知能が発達しているのだから特別に遺伝子がたくさんあるだろうという予想は外れていたのです。またゲノムの中のタンパク質の情報を持った遺伝子の数は思いの外少なかったということも明らかになりました。ゲノムの大部分の情報はタンパク質にならない情報だったのです。
ではそのような情報はどんな働きを持っているのでしょうか?
いまだにはっきりとわかっていませんが、遺伝子の働きを調節するもの(miRNA)や、進化の途中で捨てられた遺伝子(偽遺伝子)、さらにはゲノムの中を移動するDNA(トランスポゾン)が知られています。
ゲノムは生き物の設計図の本なので大切ですが、それだけを明らかにしても生き物を完全には理解できません。ゲノムの中の情報が生き物の中でどのように働いているのかを理解することも重要なのです。
まとめ
ゲノムとは、ある生き物が持っている全ての遺伝子の集合(全ての遺伝情報)のことです。
遺伝子は生き物の1つ1つのパーツの設計図で、その設計図を全てまとめてできた本がゲノムにあたります。
参考文献
- Neil A. Campbell, Jane B. Reece, Lisa A. Urry, Michael L. Cain, Stevan A. Wasserman, Peter V. Minorsky, Robert B. Jackson “BIOLOGY A Global approach TENTH EDITION” PEARSON 2015
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