[ゲノム編集]非相同末端結合による突然変異

ゲノム編集では二本鎖切断によって遺伝子を改変します。ではどうやって二本鎖切断から突然変異が起こるのでしょうか？そこには非相同末端結合というDNA修復の方法が関わっています。今回は非相同末端結合とそれが生み出す突然変異について解説していこうと思います。

その前にざっくりゲノム編集の手順についてまとめると以下のようになります。

人工ヌクレアーゼで狙った遺伝子の情報があるDNAの二本鎖をきる
DNAの修復と切断を繰り返す
遺伝子が改変されゲノム編集された生物が生まれる

今回は2と３の繋がりを中心に解説していきます。ゲノム編集には遺伝子を数塩基の欠失で破壊する方法と外来遺伝子を挿入する方法があります。ここでは食品などに応用が期待される前者の方法を扱います。

非相同末端結合による突然変異
1. 間違いやすい非相同末端結合
2. 修復間違いが起こるまで二本鎖切断を続ける
変異が生まれる
自然界で起こるDNAの切断
まとめ

非相同末端結合による突然変異

自然界でもDNAの二本鎖が切断されるということは起こります。遺伝子の情報が書かれているDNAが切断されるというのはとても危険です。しかし細胞の中に切断されたDNAを修復される働きがあるので”基本的には”元どおりになります。この”基本的には”というところが肝心で、元どおりにならないことがあります。

間違いやすい非相同末端結合

細胞内でDNAの二本の鎖が同時に切れた時、もとに戻す方法は２つあります。１つ目の方法は正しい塩基配列を確認しながらDNAを治す方法（相同末端結合）。この方法はお手本を参考にDNAを治すので遺伝子の情報は元どおりになります。もう１つの切断されたDANを治す方法は切れ端同士をくっつける方法（非相同末端結合）です。1つ目の方法とは違いお手本無しに修正を行うので、当然ミスは多くなります。切れ端だったところの塩基が欠けていてもそのままくっつけてしまうので遺伝子の情報は書き換わってしまいます。

修復間違いが起こるまで二本鎖切断を続ける

ゲノム編集で遺伝子を破壊するときは、遺伝子を修復する時に非相同末端結合を用いることで、遺伝子に突然変異を起こします。

ゲノム編集は、人工ヌクレアーゼによるDNAの二本鎖切断から始まります。ゲノム編集ではあえて改変したい遺伝子の情報があるところのDNAを人工ヌクレアーゼで切断します。

ゲノム編集でDNAを切る時、切られたDNAは先ほど紹介した２つの方法のどちらかによって修復されます。この修復は細胞にもともと備わった機能なので元どおりに修復されることが多いです。つまりゲノム編集で突然変異を起こそうとするときたった1回のDNA切断でうまくいくとは限りません。

そこで突然変異を起こさせるために、何度も人工ヌクレアーゼによるDNAの切断を行ないます。切断を繰り返せばいつか精度の悪い非相同末端結合が起こって突然変異が起こるかもしれないという考えです。数うちゃ当たる方式ですね。

変異が生まれる

遺伝子を記録しているDNAの配列から塩基が１つ抜けるとどうなるのでしょうか？たった１つくらいぬけてもどうってことないと思っていませんか。実は１つ塩基が抜けることはとても重大な影響をもたらします。

そもそもDNAの塩基は３つごとに１つのアミノ酸を示しています。このアミノ酸がつながってタンパク質をつくっているので、途中で塩基が１つぬけると後の情報がぐちゃぐちゃになってしまいます。例をあげて考えてみましょう。三文字で１つの単語を使って文を作ってみました。

「うちのにわにあかいばらがさいた」（うちの庭に赤いバラが咲いた）

この文の途中から一文字抜いてみましょう。

「うちのにわにあかばらがさいた」

意味不明な文になってしまいました。このような感じで、DNAの塩基配列において１つの塩基が抜けるということは遺伝子にかなりのダメージをあたえるのです。

自然界で起こるDNAの切断

自然界でもゲノム編集のようにDNAの二本鎖が同時に切断されることがあります。放射線によるものがおおく、宇宙や温泉のラドンからくる放射線はエネルギーが高くDNAを二本同時に切ってしまいます。

二本同時と言わなくてもDNAの片方の鎖を切ることができるものは私たちの身の回りにあふれています。その代表的なものが紫外線です。紫外線によってつくられたフリーラジカルという物質（不対電子をもった物質）はDNAの鎖を切断します。紫外線が体に悪いと言われていますが、このようにDNAを傷つけてしまうおそれがあるというのもそう言われているゆえんです。紫外線による遺伝子の突然変異はがんの原因にもなります。

一方で突然変異は悪いことばかりが起こるわけではありません。実は進化の出発点は突然変異と言われています。遺伝子の情報が書き換わることで今ままでいなかった生き物が現れます。遺伝子が改変させると聞くと悪い印象を抱くひとがいるかもしれませんが、そうとも限らないのです。

ゲノム編集は自然界で起こる変異と区別できないと言われています。それはDNA切断を通して突然変異が起こるというプロセスが、自然界で起きている進化と同じだからです。