RNA干渉(RNAi)は遺伝子の発現を調節する重要なしくみです。このしくみは発見からわずか10年ほどでノーベル賞を受賞しました。つまりRNA干渉は、生き物にとってとても重要なしくみなのです。今回はそのRNAiについてわかりやすく簡単に解説していきます。
短いRNAで遺伝子の発現をコントロール
RNA干渉とは、短いRNAによって遺伝子の発現を抑制する現象のことです。
干渉とは「邪魔する」というような意味で、英語ではインターフェレンス(interference)と言います。この頭文字のiをとってRNAiと呼ばれることもあります。
邪魔するとは聞こえが悪いですが、RNA干渉は生き物が生きていくために必要な遺伝子の発現の調整を行っています。
1つの遺伝子からたくさんのタンパク質が作られ過ぎても調和の取れた生命を維持することはできません。生命維持においてはブレーキの役割を持っているRNA干渉がとても大切なものなのです。
分子的なメカニズム
生き物の中で機能するのはタンパク質で、遺伝子はその設計図です。遺伝子は普段はDNAに記録されている状態で存在します。
その遺伝子が働くときは、一旦RNAに書き写されて(転写)、さらにRNAがタンパク質に書き換えられます(翻訳)。
RNA干渉では遺伝子がタンパク質になることをさまたげます。
書き写されたRNA(mRNA)からタンパク質を作れなくしたり、mRNA自体を分解することで遺伝子が発現することを防ぎます。(タイトルではぶっこわすと言ってしまいましたが、壊さずに翻訳をできなくするパターンもあります。)
そのタンパク質の合成(翻訳)を阻害するのに中心的な働きをするのが短いRNAです。
実際にはRNAだけが働くわけではありません。RNAとタンパク質が一緒に働いて、mRNAが翻訳されることを邪魔します。
ここで注意しておきたいのが、「遺伝子がなくなったわけではない」ということです。遺伝子の働きをなくす「ノックダウン」であって完全に遺伝子の働きを消す「ノックアウト」ではないことは注意しておきましょう。
短いRNAでmRNAを阻害する
先ほどから出ている短いRNAとは何なのでしょうか?
それは2種類あって、siRNAとmiRNAと呼ばれています。
どちらのRNAも20塩基くらいの長さのRNAで、タンパク質と一緒に働いて遺伝子の発現を調整します。
異なっている点もあるので1つずつ紹介していきます。
siRNAは細胞の外からやってくる
siRNA (short interference RNA) は2本鎖のRNAで、細胞の外部から取り込まれたものを指します。
siRNAを用いたRNAiのメカニズムは、もともとウイルスに対する免疫機能だったと考えられています。
ウイルスの中には遺伝子を二本鎖RNAとして持っているものがいます。ウイルスが細胞に感染するとウイルスを増やすために自分の遺伝情報をもったRNAやDNAを送り込んできます。これを撃退するために進化の過程で手に入れた対抗策だと言われています。
このsiRNAが細胞内に入ってくると、タンパク質がそれを認識して細胞の中にある同じ塩基配列のRNAをどんどん壊していきます。
miRNAは細胞の中で作られる
もう1種類のmiRNA (micro RNA) は一本鎖RNAです。部分相補的にmRNAに結合して翻訳をブロックするか、ガッチリ完全に結合してmRNAを分解に導きます。
mRNAの翻訳を邪魔するというところはsiRNAと似ていますが、大きく違うのはどこからこのmiRNAがやってくるかということです。
miRNAは細胞の内部、核の中の染色体から転写されて作られます。
正確には、転写の後に色々な酵素によって加工されて、成熟したmiRNAが完成します。
遺伝子は普通タンパク質の情報を記録(コード)していますが、このmiRNAはタンパク質にならずRNAのまま働くので、ノンコードRNAと言います。
実はゲノムの中にはこのようにノンコードRNAを記録している領域がたくさんあります。
RNAiの応用
バイオテクノロジーへの応用として、人工的に作ったsiRNAを生き物に取り込ませることで遺伝子の発現を調節させることができます。
遺伝子ノックアウト(変異体の作成)をしなくても、遺伝子のDNA配列情報さえあればその遺伝子がタンパク質を作ることを詐害することができ、その遺伝子の機能をしることができます。
将来的にはヒトの細胞で遺伝子の発現をコントロールさせることで、病気の人を治療することができるようになるかもしれません。
まとめ
参考文献
- Fire A, Xu S, Montgomery M, Kostas S, Driver S, Mello C (1998). “Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans”. Nature 391 (6669): 806–811.
- Ambros, V. "The functions of animal microRNAs." Nature 431,350–355 (2004) doi:10.1038/nature02871
- Press release: The 2006 Nobel Prize in Physiology or Medicine - NobelPrize.org
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