生理学と生物学。この2つの言葉はよく似ていますが意味は違います。
僕も大学に入るまで特に気にしていませんでした。今回は生理学と生物学の違いについてわかりやすく解説していこうと思います。
また今回のメインテーマの「生理学」に関連して、ノーベル生理学・医学賞にまつわる生物学の研究の話もしていきたいと思います。
生理学ってなに?生物学とどう違うのか。
生理学は生物学の一部です。
生理学=生物学ではありません。
そもそも「生理」という言葉にはどのような意味があるのでしょうか?
ちょっと回りくどいですが、わかりやすくするために「病理」という言葉を用いて説明していきます。
病理的な状態と言われて、みなさんはどんなイメージを持ちますか?
熱を出している。咳をしている。頭が痛い。こんなイメージであっています。
病理的な状態とは、生き物が病気にかかって異常な状態のことをさします。
生理的な状態とはこの病理的な状態と反対の意味です。
つまり健康で体がちゃんと機能している状態のことです。
生理という言葉のイメージができたところで、本題の生理学にうつります。
生理学とは、自然で健康な状態の生き物の体の中の機能やメカニズムを解き明かそうとする学問です。
生き物の体の中の機能やメカニズムの例をあげると呼吸や消化、タンパク質の合成や分解などなど……
あげ始めるときりがないくらいたくさんの現象があります。
こう考えると生物学多くが生理学に当てはまることが分かると思います。
ただし個体の健康状態に直結しないような個体レベルより大きな研究(例えば進化学や個体群生態学)は生理学に含まれることはほぼないです。
生物学にどんな分野があるのかは、こちらの記事で解説しています。
よくある生理学の間違ったイメージとして動物に関する研究をしているというイメージがあります。
実際に植物生理学という分野も存在しますし、生理学が自然で健康な状態の生き物の体の中の機能やメカニズムを研究する分野だという正しい理解を持っていれば、このイメージが間違っていることに気づけると思います。
ノーベル賞は生理学・医学賞
「生理学」という単語は、多くの人にとって普段聞くことはない単語です。しかし年に一回だけ「生理学」が世間を騒がす時期があります。
それは秋に話題になるノーベル賞です。
ノーベル賞の中には生理学・医学賞があります。
ここで注意してもらいたいのは賞の名前です。
ノーベル生物学賞ではなく、正しくはノーベル生理学・医学賞です。
つまりこの賞は生理学の研究か医学の研究に送られます。生物学全体を対象にした賞ではないのです。
またノーベル賞をとる研究には条件があります。その条件は、人類に大きな貢献をしたということです。
ヒト以外の生き物を使った研究でも人類に大きな貢献をしたものはたくさんあります。
2012年に山中伸弥さんと同時にノーベル賞を受賞しましたが、ジョン・ガードンさんも一緒にノーベル賞を受賞しました。
彼が研究していたのはカエルです。
ガードンさんはカエルをもちいて大人の細胞が受精卵の状態に戻るということを核移植技術で証明しました。
これは皮膚の細胞は皮膚の細胞にしかならないという考えを否定するもので、皮膚の細胞1つあれば筋肉も神経も作ることができ、さらにはもう一人の自分まで作り出せることが可能だということを示しました。これが今盛んに行われている再生医療の研究の第一歩でした。
ガードンさんのカエルの研究は、一見ヒトの役には立たなそうに見えますが、実はiPS細胞の研究の基礎になった研究だったのでした。
このようにヒト以外のものを研究していてもヒトの役にたつ研究の基礎になれば、人類に大きな貢献をしたと認められて、ノーベル賞を授賞することは大いにあり得ます。
ノーベル賞を取れない生物学の分野
ノーベル賞が生物学全体を対象にした賞ではないという話をしたので、最後にノーベル賞が取れない生物学についてお話しようと思います。
今までノーベル賞を取れない分野の代表は進化学です。
ノーベル賞の選考委員会の人たちから、進化学は人類に大きな貢献をしていないと見なされているようです。
確かに進化学は直接的にヒトの命を救うことはありません。
しかし進化は生物学の根幹をなしている重要な研究テーマの1つです。
今いきている生き物を生み出したプロセスが進化です。進化を理解しなければ、生き物の多様性の理解はできません。
ノーベル賞の対象外の分野にも、重要でおもしろい研究はたくさんあります。
まとめ
- 生理学とは、自然で健康な状態の生き物の体の中の機能やメカニズムを解き明かそうとする学問です。
- ノーベル生理学・医学賞は人類に役に立った研究に送られます。ヒトに関する研究が多いですが、その基礎となる研究ならヒト以外の生き物を対象とした研究でも取れます。
- ノーベル賞の対象外の分野にも、重要でおもしろい研究はたくさんあります。
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